藤原純友の乱と日振島の財宝伝説 blog

天慶年代 東の平将門の乱とほぼ同時期 時の律令国家に反逆し瀬戸内海・豊後水道で乱を起こした藤原純友の歴史とその財宝伝説を研究しています。最近、藤原純友の根拠地といわれた愛媛県宇和島市沖合いに浮かぶ日振島で新たにいろいろなことがわかってきました。純友の歴史研究をたどりながら、純友の財宝伝説に迫っていきます。

前の伊予の掾(じょう) 藤原純友

さて前回、純友の経歴のひとつとして挙げた 官職である 前(さき)の伊予の掾(じょう)から、純友の動きを見てみましょう。

藤原純友が前の伊予の掾だったという経歴は 本朝世紀の記載 「前伊予掾藤原純友、去る承平六年、海賊を追捕すべきの由宣旨(せんじ)をこうむる」などの記録から明らかになっており、承平六年(936年)以前に伊予国愛媛県)に掾として赴任していたわけです。

その任期は不明ですが、とにかく伊予国に来てどうも伊予国とその沿岸にある瀬戸内海の治安維持や警察検察などの仕事をしていたことが伺えます。

そうして、ここで重要なのが、この本朝世紀の記載にある 海賊を追捕すべき という記載であって、この時期 瀬戸内海で海賊が横行しており、その追捕 つまり逮捕や抑止、治安維持、海賊行為の制止などに従事していたのでしょう。

つまり、もともと純友は官側(政府側)の者であり、海賊を取り締まる側の者であったことがわかります。

ところで、藤原純友の経歴を洗っていくと、純友の父親の従兄弟に藤原元名という人物がいます。そしてこの人物は承平二年から五年にかけて伊予守に任命されておりました。つまり 伊予守 とは伊予国における守 総責任者 知事のような立場です。

しかし当時の京の上層階級の者は、こうした守などの国司に任命されても、実際には現地に赴かず京にいたままで、より下の立場の者に国司の地位(守よりしたの 掾 や 介 目(さかん) などの実際の実務を担当する役職)を与え現地に赴任させることが多かったのです。

これは、比較的安全な京から出て、危険な地方に赴くより、部下に国司の地位を与えて、治安の悪い危険な地方の実務にあたらせ、税や貢物のピンはねをしていたほうがより有益だったからでしょう。

一方、実際に地方に赴任した国司たちは、危険ではありますが、現地で絶大な権力を与えられておりますから、一定の税を京に納めればあとはやりたい放題。国司によってはかなり悪らつなやり方で暴政をふるった者も当時は数多くいたようです。こうした暴政は地方で相当な恨みを民衆からかうことになりますが、そうしたことが後の藤原純友の乱の原因の一因になっていることは確かでしょう。

さて、純友は後に全瀬戸内海の海賊や海民をまとめて、絶大なカリスマ性を持つ人物に成長していくことを考えると、おそらくこの伊予の掾の時代にも、いろいろな意味で善政を引き、瀬戸内海の民衆に一定の信用を得ていたのでしょう。

当時、瀬戸内海は交通や物流の大動脈ともいわれ、西日本の諸国から京への税物や食料など 膨大な物流が形成されており、さらに 九州の大宰府をとおして 東アジア 中国との貿易による貿易品の京への輸送 あるいは 頻繁な密貿易の物流などがあり、その海上権益は莫大なものとなっていたことが伺われます。そうして、その権益を時の律令政府がほぼ独占しており、瀬戸内海ではその海上権益(運輸・輸送・交通権・貿易権など)をめぐっても頻繁に勢力争いや政府との利害関係での衝突が起こっていたようです。

こうした背景が、後の藤原純友の乱の原因の大きなものとして考えられるわけです。

おそらく純友は、こうした瀬戸内海における海民や海賊の海上権益の争いの仲介や、審判、治安維持などに実力を発揮し瀬戸内海の民衆に信用されていったのではないかと思われます。

その一方で、純友も国司の一員でありますから、善政をひく一方で 収益性の高い海事に関わる仕事から得られる収入や、大宰府を通じて流れてくる貿易陶磁器や砂金、外来銭 などの貿易品による収入、または海賊などからの海賊行為の取り締まりで没収した物資・産品などで多くの蓄財もあったものと考えられます。その数々の蓄財品はどこに行ったのでしょう?

そうして、少なくとも承平六年より以前に 純友は国司としての任期(4~6年?)を終了し 一旦、京に帰っていたようです。

しかし、この時期の瀬戸内海は 伊予国を含むさまざまなところで海賊行為が頻発しており、その治安維持と京への安全な物流の維持が困難になりつつある状況が続いていることが伺えるのです。

そうすると、朝廷としても瀬戸内海を通じての税の回収が困難になり、財政が圧迫されてくる。困り果てているところにまた伊予国では大きな事件が起きてきます。

承平四年の冬には伊予国喜多郡で三千余石という莫大な米が官の蔵から略奪される事件が起こったのです。

次回は、その背景と純友との因果関係 当時の海賊の特徴について説明していきます。

 

藤原純友 (人物叢書)

藤原純友 (人物叢書)

 
日振島 藤原純友財宝伝説の行方―知られざる宇和海

日振島 藤原純友財宝伝説の行方―知られざる宇和海